中谷展のこと

2006年4月18日

自転車日和の火曜日。
タカサカは開催中の「十勝の土・帯広の刻 中谷有逸展」を巡ってきました。帯広市の街の中五か所で同時に開催された展示です。
中谷先生の表現の振り子の幅は大きく、鑑賞者を翻弄します。
抽象、具象、油彩、水彩、版画と線引きするのも変な時代なのですけど、先生はひょいひょいと飛び越え、自分のその時一番したいことを一番したい表現であらわします。
今回は帯広の懐かしい建物を中心にした水彩画中心の展示です。
街のなか五か所に点在するそれぞれの場所には判子があってスタンプラリーにもなっています。普段はたちいることの出来ない「旧宮本商産本社」も会場の一つでした。
タカサカは大通りから広小路に入り、「NC会場」よりスタートしました。瞬間のトリップです。なんの言われもないただただ古い建物は時が来た時解体されてゆきます。いつのまにやら更地になっていることなど不思議なことでもないのですが、ぽっかりと空いた土地はすぐに記憶の糸口を手放します。それなのに、ココには描かれて在るのです。いつも思い出すようなことでもない記憶がまさに呼び出されるなんとも言えない浮遊感覚。タカサカは生まれてこのかた帯広育ちなものですから尚更です。
大通りから平原通りの「旧宮本商産本社」をたずねます。古めかしい頑丈な建物は幾多の震災にも堪えたもの。風格が違います。独特の時間の中、中谷先生の絵は通りに面した大きな窓と同じように時間を越えて景色を映します。
帯広の老舗百貨店「藤丸」に向かいます。
道すがら自然と視線が建物に向かいます。特別に古い建物ではありませんが、中谷先生の描く風景世界に近付いてしまい、現実の世界を見つめる目がなんだかリアルではありません。藤丸側から歩いてくる人たちとすれ違います。手にはスタンプ帳になっている「1972年帯広市街図」。なんともいえない連帯感です。なんとなく会釈を交わしたり、ほほえみあったりしてみちゃったりします。
あの日の帯広を考え、想い、そぞろ歩く。タカサカは自転車をのんびりと走らせます。
同じものを見たものの共通認識の不確定な染みはそれぞれに深く沈み込みます。
声高なスローガンで聞き流される情報過剰扇情的な価値観とはまた別の次元で、花びらが舞い散るこまやかさで鑑賞者の気持にふっと入り込みます。
街に必要なナニカ…。
とても意義深い展示会だったと思います。
中谷先生はもちろんのこと、展示会成功のために尽力された関係者各位に最大限の賛辞をおしみません!!