月イチコラム 「由良さんのアトリエ」

由良さんのアトリエ                          017

先日、池田町にある、由良真一さんのアトリエへ行って来ました。

由良さんのアトリエは昔の農家の納屋を改装しています。

腰折れ屋根と呼ばれる、屋根の斜面の角度が2段階になっている、細長い赤い屋根の昔ながらのおうちです。

説明が難しいので「スロウ」vol.21のP56をご覧ください。 ね、素敵でしょ?

訪れた日は「アトリエ展」ということで、他にもお客様がいらしていました。

おひげの由良さんと、すらりとした奥さまは、常ににこやかに訪れた人々を迎え入れて、アトリエの中や花が咲き乱れるお庭を案内してくれます。

細長い建物の真ん中が入り口です。

入るとレンガで丁寧に組まれた土間があり、窓に面した廊下伝いに、扉の無い、区切られた空間が3つほどあります。

天井に渡された梁には、壁に向かった面にのみ蛍光灯が取り付けられて、絵がちょうど良くライトアップされています。

見る人の目に光が入らないようになっており、素晴らしいアイデアです。(小さいながらもギャラリーを持つFLOWMOTIONとしては、ライトアップがいつも悩みの種なもので・・・)

仕切られた部屋は六畳間ほどで、テーマ別に絵が展示されています。バラなどの「花」、十勝の夏の風景、秋の川の風景。

ずっしりと重そうな一枚板を渡した階段を昇ると、2階は大広間です。屋根の腰折れ部分から続く壁にも、ずらりと絵が並んでいます。両端は床から屋根の上部まで続く、大きな窓になっており、そこから見える収穫最中の小麦畑は、既にそれが一枚の絵のようでした。玄関の真上も窓になっていて、お庭の様子がうかがえます。

2階で見せてもらった絵の中に、ヨットハーバーの風景がありました。

水面がキラキラと輝いていて、空には雲がぽかりと浮かんでいます。ヨットは波に揺れて、風になびいているように見えます。  あれ?

動いていないのに、なぜか動画を見ているような気分になります。

そういえば!! 思い出しました。

以前、音更図書館で展示されている由良さんの絵を見たときのことです。 

どこか、海か、大きな川の風景で、向こうに街並みが見えます。その水面が、暮れかけた太陽の光を浴びてキラキラと輝いているのを見て、絵の裏に電球でも入れているのではと、思わず額と壁の隙間を覗き込みました。 ・・・何もありませんでした。

あまりに不思議で、近づいたり離れたりしながら見た覚えがあります。

ど素人の私がこんな事を言うのはおこがましいのですが、由良さんの絵は透明感があり、絵と自分との距離感が分からなくなってしまいます。入り込んでしまうというか、今、自分がその風景を「生」で見ているような気分になるのです。

どんよりと曇っていて湿った空気感とか、山から吹いてくる爽やかな風とか、岩に当たって跳ねてくる川の水しぶきとか。

由良さんはいつも、3~4時間で風景画を仕上げてしまうそうです。旅先でこんな風に絵が描けたら、どんなお土産よりも、写真よりも、その時の空気を持ち帰ってこられて、素晴らしい思い出になるのだろうなあと思います。

アトリエを見せてもらった後に、奥さまが丹精こめて作られたお庭を散策しました。

うっとりするような甘い香りの百合。 風に揺れる真っ赤なポピー。 雪の結晶のような青・白・ピンクのニゲラ。 太い茎に控えめに下を向いた空色のボリジ。 黄色い小さな花を花火のようにパッと広げたデイル。

花から花へ蝶やミツバチが飛び交い、ハスの花が浮かぶ池ではアメンボが忙しく水の上をスイスイと滑る。 ドクダミの白い清楚な花も咲いていました。

たくさんのお花が所狭しと咲き乱れて、いつまで見ていても飽きない、素敵なお庭でした。

ほんの1時間ほどでしたが、光のあふれる絵と、色のあふれるお庭で、のんびりと楽しい時間を過ごすことができました。

お気に入りの場所が、またひとつ、ふえました。

 2010年8月

                FLOWMOTIONカフェ担当 つかこしちひろ