14話 敏子さん 2002年1月5日土曜日
リビング。
そこには岡本太郎がいるではないか。アハハ。
ロウ人形なのか? ツヤヤカな顔の背広をきた太郎が手を広げ二人を迎えてくれた。
原色に彩られた造型物。一応の役目はイスであり、テーブルであるわけなのだが、しかし!って感じのものばかりだ。
『座ることを拒否するイス』という作品名のあるイスがある。
まったくノンビリできないモノである。腰をおろすトコロにはデコデコとした装飾がある。
太郎によれば、ユッタリとしたイスなんかクソくらえ!って感じなのだ。
イスにノンビリ座ってどーしようってんだあ! あぁ?ってことなのだ。イスとは、戦いに次ぐ戦いのほんの一瞬の休息をとる場でよいのだ!
太郎の人生における『イス』という道具に対する考えである。
一理あるとは思う。
ちなみに、タカサカは喫茶店に入ると、2、3時間は楽しんでいられる。
太郎とは喫茶店にはいけない。クスン。
部屋を囲む直線以外にはここには曲線ばかりだ。
太郎の息遣いそのままに駆け巡る動線そのままの立体物に、しばし嘆息。
団長とタカサカは大いに笑い、大いに盛り上がった。
デジカメにはまるで生きているような太郎がニヤリとしている。
『手のひらのイス』に腰掛け、リビングの写真もほしかったが、部屋そのものには入れないのであしからず。
続く廊下の突き当たりが太郎のアトリエである。
狭い通路を抜けると高く吹き抜けた天井。
ドッカーン!!ってな感じの衝撃的空間!たぶん、どんな人もそんな気分になるんじゃないのかな?
気持がイイかワルイかはわからないけど、ナニかがあるハズ!!
未完の作品が棚に整然と収まっている。
太郎は1枚ずつ作品を仕上げるってことはしなかったらしい。
思い出しては、衝動にかられては、画面にぶつかっていく。だから、途中で気持が途切れると、棚に収められ、パワーが充実するころに描きすすめられる。そんなこんなで、未完の大作がここにはたくさんある。
実に、太郎は生きているのである。ほんとに。いつでも、作品にとりかかれるようになっている。ほんとに。
(注 ここにも岡本太郎のロウ人形があったのだが、何故だかスキーヤッケとしかいいようのない、古いスノージャケットにニット帽という出で立ちだった。その姿はただの山小屋のおっさんだった)
ガーン!!である。
2人は太郎パワーに追い出されるかのように、展示室に向かう。
パタパタパタと素早い人影! オォ! 彼女こそ岡本敏子その人ではないか!
岡本敏子とは岡本太郎の終生のマネージャーであり、結婚をしなかった太郎の実質的な伴侶でもある。
敏子さん自身は太郎を愛していたことでしょう。なにもかもを。
養女という肩書きにより、太郎の作品の管理者として活躍。岡本太郎記念館の館長でもある。ここ数年の太郎ブームの立て役者である。
タカサカはいるではあろうが、会えるであろうか?と、実は入館時よりドキドキしていたのだ。さあ、大変である。
敏子さんは階段をパタパタと昇っていく。とても70過ぎとは思えない身のこなしである。
「あぁ、えーと、来ました!」
なんて意味のないことをタカサカは言ってしまった。
敏子さんは途中立ち止まり、ニッコリ笑ってくれたのである。
ああ、よかった、とりあえず。
タカサカの意気地なし!(ちょっとハイジ風)。